基板ケース・ハードウェア

 

【基板ケース・ハードウェアの選定】
見落とされがちな筐体設計と現場に根差した実装判断

■はじめに|ケースは単なる“入れ物”ではない

電子機器の要となる基板。その基板を守り、固定し、使用環
境とつなぐ存在が「基板用ケース」である。単なる箱と
思われがちだが、材料・形状・設置環境・EMC・熱対策・
加工方法など、製品化の過程で重要な判断を必要とする。

基板用ケースの選定ミスは、製品品質の根幹に関わる。
安易な既製品流用、過剰スペック、見た目だけでの判断は
結果としてコスト増・不良率増加・保守性低下を招く。
本記事では、筐体選定における現場視点と技術背景を整理し、
確実なものづくりの一助となる情報をお届けする。

■基礎知識|筐体の役割と選定要素の全体像

基板用ケースとは、回路基板を機械的・電気的に保護し、
製品としての安全性・信頼性・操作性を保証する筐体部品で
ある。ケースの主な役割は以下の通りである。

・物理的保護(外力・粉塵・水分・衝撃)
・電磁的保護(ノイズ対策・シールド)
・放熱機能の補完(放熱経路の確保)
・組立・メンテナンス性の確保
・ユーザーとの接点設計(LED窓、操作ボタン、表示)

これらは「構造・材料・表面処理・加工方式」の4つの軸で
最適化される。つまり単なる箱ではなく、性能の集約体である
ことをまず理解すべきである。

■構成方法|樹脂か金属か、その選定の分かれ道

もっとも基本的な分岐点が「樹脂ケース」か「金属ケース」か
という選定である。この判断は、以下の観点でなされるべきで
ある:

・電磁ノイズの有無(EMC対応の必要性)
・落下・振動など物理ストレスのレベル
・防塵・防滴・防水の要件
・放熱経路と発熱密度
・設置環境(屋内外、温湿度、塩害など)

金属ケース(アルミ・鉄など)は、剛性と放熱性、EMC遮蔽性で
優れる一方、重量とコスト、加工の手間で劣る。
一方、樹脂ケース(ABS、PC、PBTなど)は軽量で安価、形状の
自由度が高い反面、放熱性と電磁耐性に課題がある。

そのため、以下のような折衷型も多く採用されている:

・底面(シャーシ)のみアルミ、上部カバーはABS
・内部放熱板のみ金属、外装は軽量樹脂
・EMC対策に導電塗装を施した樹脂筐体

このように、用途に応じた材料の“組み合わせ設計”こそが
現代のケース設計の基本である。

■中間構成要素|治具・ガイド・マウントの重要性

基板ケースは、単体ではなく周囲構造と連携する必要がある。
よって、以下のような“構成補助部品”の存在も忘れてはならない。

・スペーサー・支柱(基板の高さ調整)
・端子取り出し治具(コネクタ・ケーブル配線)
・インシュレーター(絶縁材、耐振ゴム)
・マウンター(DINレール、壁掛け、ネジ留めなど)

これらは、「既製品ケースを使う前提」であっても必要になる。
逆にいえば、治具や構成部品の設計なしにケースを決めるのは
早計ということである。

■設置環境|屋内か屋外かで大きく変わる前提条件

ケース選定で最も根本的な分岐が「屋内用途」か「屋外用途」
である。屋外に設置される製品には、常に以下のようなリスクが
伴う:

・直射日光による熱と紫外線
・雨水や結露による浸水・短絡
・粉塵や砂によるスリット詰まり・動作不良
・極端な寒暖差、湿度変化による熱膨張・水滴
・虫や小動物による侵入・ケーブル破損

これらに対処するためには、次のような設計要素が求められる:

・ケース全体のIP等級(防塵・防水性能)
・材質の耐候性(UV耐性、樹脂の劣化耐性)
・排水・通気設計(ドレイン、透湿フィルムなど)
・色調(黒は熱吸収大。白・グレー系が屋外向き)

一方、屋内でも工場・厨房・倉庫などは“屋外並み”の対策が
必要な場合も多い。湿度・薬品・水蒸気・高温高湿など特殊環境
では、屋外基準で設計することが望ましい。

■放熱構造の考え方|熱を逃すためにケースはある

放熱設計は「筐体を構造的にどう使うか」が問われる領域である。
放熱には以下の3手法がある:

1)伝導(熱をケースや部材に逃がす)
2)対流(空気の流れで外部へ逃がす)
3)放射(赤外領域として外へ出す)

これらを組み合わせて、次のような工夫が必要となる:

・ヒートシンク形状の採用(フィン付き蓋や底面)
・アルミダイキャスト筐体の使用(高放熱+耐候)
・基板裏面からサーマルパッド+底板接触方式
・温度センサー内蔵+外部ファン制御への備え

さらに、筐体表面の色や仕上げ(艶ありか艶消しか)によっても
放熱性能は大きく変わる。放熱性能は「設計で稼ぐ」ものとして
筐体の役割を再確認すべきである。

■既製品を使うか、オリジナルを作るか

コストと納期の観点から、まず検討されるのが既製ケースの選定。
タカチ・ウインド・RSなど、多くのメーカーが標準筐体を提供して
いる。既製品をベースに以下の加工を加えるのが一般的である:

・開口加工(コネクタ・USB・LED用の穴)
・印刷・シルク・レーザーマーキング
・ネジ位置変更・寸法カスタマイズ
・内寸追加(支柱やピン挿入)

しかし、既製品で対応できない以下のような場合には、
オリジナル筐体(特注設計・金型起こし)を選択する:

・寸法が特殊で周囲機構に干渉する
・ロゴや意匠性が高く、ブランド構築に必要
・環境要求が厳しく、IP等級や放熱要件が高い
・量産前提で、トータルコストを抑えたい

■ロゴ印刷・意匠設計のタイミング

見落とされがちなのが、筐体表面のロゴ・印字・加工設計である。
これはマーケティング面だけでなく、リスク防止の視点でも重要:

・製品の区別(OEM供給や相似品との差異化)
・型番・製造番号の刻印によるトレーサビリティ確保
・ユーザーへの操作指示(LED色・スイッチ記号など)

レーザー印字・UV印刷・ホットスタンプなど手法は多岐にわたる。
また、素材(塗装有無・表面粗さ)によっては印字が滲む場合もある。
ロゴや印字は「最後につけるもの」ではなく、筐体構成の一部として
事前に織り込むべき対象である。

■量産計画と型設計の考え方

ケースを特注で作る場合、最も大きなコスト要素が金型費である。
この金型は単なる初期投資ではなく「量産のための装置」である。
以下の観点で事前に整理しておきたい:

・量産数の見込み(年間ロット・最小発注単位)
・バージョン違い(ポート穴違いなど)への対応方針
・樹脂の流動性と金型構造(ゲート・冷却・抜き勾配)
・将来的な改版・保守(スライドインサート対応など)

100個未満なら既製品カスタム、100〜500個なら簡易金型、
1000個以上なら金型起こしが推奨されるが、これはあくまで目安。
設計と運用の両立が取れる数値設計こそが、量産成功の鍵である。

■技術やノウハウ|よくある失敗例と注意点

基板用ケース設計でよくある失敗は、下記のようなものである:

・熱がこもって誤動作する(放熱経路不備)
・ケーブルが干渉して蓋が閉まらない
・端子台が筐体壁に当たってネジ締めできない
・電波干渉で通信エラーが頻発(樹脂と金属の認識不足)
・印刷したロゴが剥げる・変色する(素材非対応)

これらはすべて、「先にケースを決めた」ことによる設計倒れ。
本来は、以下の流れで構成されるべきである:

1)使用環境・用途ヒアリング(湿度、落下、ユーザー層)
2)放熱・EMC・配線構造の設計
3)取付け方法(壁掛け、DINレール、スタンドなど)
4)内寸・部品クリアランス検証
5)ケース材質・加工方式・仕上げの選定

この順序を守るだけで、設計トラブルの80%以上は防げる。

■設計を助ける実践的な用語解説

・EMC:ElectroMagnetic Compatibility。電磁両立性。
筐体の材質・接地・導通設計がEMC試験に大きく関わる。

・IP等級:防水・防塵の国際基準。IP65やIP67など。
ケース単体ではなく組み付け後の性能が求められる。

・ドレイン構造:浸入した水を筐体外に逃がす設計。
屋外筐体や屋内厨房では、意図的に逃がす設計が有効。

・サーマルパッド:基板と筐体を熱的に接触させる部材。
接着ではなく“挟む”方式で設計されることが多い。

・インサート成形:ネジ受け金具やボスを樹脂に一体成形。
金属部品との一体化により強度・精度が向上する。

■共創アイデア|ケース選びから体験を設計する

Primal Design.Laboでは、基板用ケースを単なる機能部品と
してではなく「製品体験(UX)の一部」として捉えている。

たとえば、操作ボタンの反応、LEDの視認性、持ちやすさや
手触り、裏面の滑り止め構造、メンテナンス性…
これらすべてが“筐体の作法”であり、構造だけでなく
感覚に基づいた設計を行う必要がある。

そしてもうひとつ重要なのが、事業フェーズとの整合である。
スタートアップ/量産前提/試作段階では、ケースの優先順位
が全く異なる。その都度「コスト/印象/改修性」を動的に調整
しなければならない。

こうした変化に対応するために、私たちは「対話」を軸にした
ケース設計支援を行っている。ヒアリング、試作、量産調整まで
伴走できる体制を整えている。

■小話:ロゴ印字の相談から始まった“見えない素材問題”

ある日、他社で開発されたIoT機器の量産直前相談が舞い込んだ。
「ロゴ印字の耐久性だけ確認してほしい」という内容だった。

相談元では、既製品ケースを用い、レーザー刻印による
ブランドロゴを入れる計画だった。加工業者も手配済み。
試作も終えて、実機印字も「問題ない」と報告されていた。

念のため、弊社で印字後のケースを拝見すると──
触れた瞬間に気づく違和感。
印字そのものは綺麗だが、指先に残る“粉っぽさ”。
素材を調べてみると、想定のABSではなく、コスト調整で
急遽採用されたポリプロピレン系の特殊グレードだった。

PP系はレーザーとの相性が悪く、印字の深さ・濃度ともに不安定。
擦過テストを行うと、わずか10往復で視認困難になる結果に。

実はこの素材変更、量産検討段階で仕様書に反映されていなかった。
担当者も「素材が変わるとそんなに違うのか…」と驚かれた。

結局、印字方法をUV印刷+下地処理に変更。
同時に、製品ラベルや箱の意匠も含めて再整理を行った。

この案件から得た学びは、「加工方法の検証=素材の確認」だということ。
私たちは“依頼された作業”の背景にこそ問題が隠れていると考えている。

Primal Design.Laboでは、工程単体で対応するのではなく、
「製品全体の連関構造」として評価し、必要なら一歩踏み込んだ
提案と検証を行っている。それは、未然に品質を守る設計でもある。

■まとめ|“選ぶ”のではなく“設計する”ケースの世界

基板用ケースは単なるパーツではない。
それは製品の性能、体験、ブランド、安全性、そして事業の
信用を背負う“構造の主役”である。

Primal Design.Labo合同会社では、筐体設計の構想段階から
量産・実装・加工・印字・物流までを視野に入れた総合支援を
行っております。

ハウジングは、選ぶだけでは足りません。
使用環境、体験、素材、加工、量産、ユーザー行動まで
一貫して考えることで、はじめて“プロダクト”になります。

基板を活かすために、ケースも設計しましょう。
まずはご相談ください。

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