判断のブラックボックス化

 


従来のデジタルトランスフォーメーションが失敗しやすい原因の一つに、
判断のブラックボックス化があります。

これは「結果だけが残り、なぜそう判断したのかが分からない」状態です。

一見すると業務は進んでいるように見えますが、組織としての再現性と改善能力が失われ、
トラブルや手戻りが起きた瞬間に、急激に機能不全になります。







判断のブラックボックス化とは何か



判断のブラックボックス化とは、意思決定が行われたことは分かるのに、
判断に至った根拠、前提、条件、制約、検討した選択肢が残っていないために、
後から誰も説明できない状態です。



例えば、次のような場面で起きます。



  • 設計や計画の方針が決まったが、理由が資料に残っていない

  • 見積りや価格が決まったが、比較した条件や前提が残っていない

  • 発注先や材料が決まったが、検討過程が口頭のまま消えた

  • 不具合対応の方法が決まったが、再発防止の根拠が整理されていない



この状態が続くと、「そのとき担当していた人」にしか分からない判断が増え、
組織として学習できないまま、同じ問題を繰り返します。






なぜブラックボックス化が起きるのか




1) 業務が忙しく、判断の記録が後回しになる



現場では、判断すること自体が目的ではなく、納期や成果物を出すことが優先されます。
そのため「後で書こう」「落ち着いたら整理しよう」となり、結果として何も残りません。
判断の価値は“後から効いてくる”にもかかわらず、今すぐの成果に見えにくいのが原因です。




2) 関係者が多く、前提が分散している



組織の判断は、設計、営業、調達、製造、品質保証、法務など、複数の立場の情報が混ざって成立します。
しかし、前提がそれぞれの資料や会話に散らばると、全体として整合した形で残りません。
「どこかにあるはず」でも、見つからない状態が起きます。




3) 判断は言語化が難しく、暗黙のまま進む



例えば、熟練者の判断は「感覚」ではなく、過去の経験の積み重ねによる高度なパターン認識です。
しかし、それは本人にとって当たり前であるほど言語化されません。
結果として、判断は共有されず、再現不能になります。




4) ツールが「結果」を保存しても、「理由」を保存しない



多くの業務ツールは、入力と出力、あるいは成果物は保存します。
しかし「なぜそうしたのか」「他にどんな選択肢があったのか」といった判断の内部を残す設計ではありません。
そのため、ツールを導入してもブラックボックスは残ります。






ブラックボックス化が引き起こす具体的な被害



  • 説明責任が果たせない:顧客、監査、社内承認で根拠を示せず、合意形成が遅れる

  • 手戻りが増える:前提が共有されず、後工程で「聞いていない」「想定と違う」が発生する

  • 品質が安定しない:同じ条件でも担当者によって判断が変わり、結果がばらつく

  • 教育が進まない:新人が「なぜ」を学べず、表面的な手順だけを覚える

  • 改善ができない:うまくいかなかった原因が辿れず、再発防止が形だけになる



つまり、ブラックボックス化は「情報が無い」問題ではなく、
判断を改善可能な形で残せないという構造問題です。






「記録しているのに分からない」問題



よくあるのが「資料はある」「議事録もある」「チャットログもある」。
しかし、それでも判断理由が分からない、という状態です。



これは、情報が存在していても、それが構造化されていないために起きます。
具体的には、次のような形です。



  • 文章が長く、重要な判断ポイントが埋もれている

  • 決定事項だけが残り、前提や反対意見が残っていない

  • 資料の更新で過去の判断が上書きされ、差分が追えない

  • 関連資料が分散し、リンクや参照関係が無い



つまり必要なのは「記録」ではなく、判断として扱える形に整理された記録です。






生成系人工知能の導入で起きやすい新しいブラックボックス



生成系人工知能を業務に取り入れると、文章や提案は速く出るようになります。
しかし、ここにも新しいブラックボックスが生まれやすい点に注意が必要です。



  • 提案の根拠が「それらしい説明」に見えて、実際の前提と一致していない

  • 同じ質問でも出力が揺れ、どれが正しいか判断できない

  • 判断が「人工知能がそう言った」に置き換わり、責任の所在が曖昧になる

  • 誤りがあっても、どこを直せば改善するのか分からない



ここで必要になるのが、「出力の正しさ」以前に、
判断に必要な材料と前提を、追跡できる形で保持する仕組みです。






構築人工知能(PrimLoop)が目指す状態



構築人工知能(PrimLoop)は、判断を「自動で置き換える」ことよりも、
判断が説明できる状態を作ることを重視します。




具体的に残すべきもの



  • 前提:何を前提として議論しているか

  • 条件:必須条件と優先条件は何か

  • 制約:法規、コスト、納期、物理的制約など

  • 選択肢:検討した案と、その違い

  • 根拠:なぜその案を選んだのか

  • 未確定点:何が未決で、次に何を確認すべきか




これらが残ると、判断は「一回きりの会議」から、
次に再利用できる知的資産になります。
そして、説明責任、教育、改善が成立しやすくなります。






実務での改善の進め方(小さく始めて確実に残す)



ブラックボックス化は、いきなり全社で解消しようとすると失敗します。
まずは、影響が大きい判断領域から小さく始めるのが現実的です。



  1. 判断が詰まりやすい場面を選ぶ:手戻りが多い、確認が多い、説明が必要な場面

  2. 判断材料を整理する:前提、条件、制約、選択肢、根拠、未確定点を揃える

  3. 判断の記録を再利用できる形にする:案件ごとに散らばらない形で残す

  4. 次の案件で使って改善する:使って初めて欠けている項目が見えてくる



こうして、判断が“辿れる”状態が定着すると、
属人化やデータ不足が残っていても、業務は止まりにくくなります。
これが、構築人工知能(PrimLoop)が狙う実装の方向性です。




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